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Batman And More Characters Suits
By Villain

 

 『BATMAN』の世界は実に不可思議で、非常に意図的なアンバランスさがあるように思える。
 中でも、魅力ある敵が『BATMAN』の世界をより引き立てている。
 普通なら主人公が「光」で、敵が「闇」だろう。闇が暗ければ暗いほど光が強く見えるように、ヒーローのヒーローたる姿をより克明に印象付けるのだ。
 しかし、『BATMAN』では逆なのである。
 主人公は心に深い闇を持っており――それを画面上にも投影している――、対する悪役たちはエキセントリックでインパクトが強い。原色を多用し、闇の中に”浮き出させる”ような衣装である。
 ただし、悪役には悪役として当然、然るべき「闇」や「影」を持っていて、T.バートンは奇妙な怪人怪人たちの中に影や闇を――先に述べたような「光」と「闇」の作用を利用して――強烈に引き出している。

 

 『BATMAN』における永遠の宿敵ジョーカー。冷酷で非情、残忍な当初の設定そのままに描かれているのだが(ファッショに至ってもかなり忠実なのでは?)、闇の中に住まう闇そのものをまとったバットマンと、かなり対比して使われている色が明るい。
 原作者ボブ・ケインはジョーカーについて、1929年ドイツ製作『笑う男』でコンラート・ファイトが演じた役柄がイメージであり、持っていたトランプのジョーカーがモデルになっていると言う。「ジョーカー」はピエロのような様相であり、ピエロは明るい道化の姿をしながら悲しみを持ったキャラクターである。

 ペンギンが一番悲しみをさそう(映画の設定段階で一番不幸かもしれない…)キャラクターだと思うのだが、「奇怪な容姿」と言うだけで愛されることを知らず、憎まれること、憎み返すことだけを学んで生きてきた男の悲劇が描かれている。はっきり言って、このストーリーだけは嫌いだ、キャストはかなりイイのに(笑)
 こう言っては失礼だが、不恰好な体型である。奇妙な動作である。そして、それが古典的な正しい紳士の服装で、これまた――敵役の定番とでも言うか――派手なマシーンを乗り回し、傘の機関銃などと言う奇抜な武器を乱射する。デザイン的には原作通りのファッションなのだし、BATMANにおける敵役のトレードマークとも言える「派手さ」は、「もともとからの奇妙な容姿」と言う点でジョーカーより控えめだ。


ベッキーを捕えたジョーカー
(『BATMAN』より)

 『BATMAN』に登場するキャラクターは、道化師の性質を持っていると私は思う。
強烈なインパクトと色の主張、奇想天外な行動と共に、どこかしら悲哀を感じずにはいられない。コメディタッチで描かれていても、T.バートンが映画で主張したように、多くの作家が描いたBATMANシリーズのシリアスストーリーに、そう言った悲哀を織り込んでいるのは元々キャラクターにそう言った性質があったからではないだろうか。

 それはさておき、ペンギンと共に登場したコミックの大人気キャラクターの一人、キャットウーマン。キャットウーマンの衣装…まず、マスクが目を強調する作り方になっている。大きくて強い印象を持ったミッシェルの美しい目元の魅力がちゃんと出ていて、イイ。
 そして、ツギハギで作られたボンテージ。キャットウーマンの持つしなやかでセクシーな所をしっかり表しているし、ツギハギな所、それから光沢のあるビニール質のラメ合皮がラヴァー質のバットスーツや布地でしっかり作られたペンギンのスーツとはっきりした区別を持って画面にメリハリをつけている。それからツギハギなのが、彼女自身の壊れた精神面(あるいはバットマンと同じようなニ面性)を具現化したように思う。

 

 

 もっとも分かりやすいのは、Batman And More Characters Suitsページでも述べたMr.フリーズ、それから『FOREVER』で登場したトゥー・フェイス&リドラーである。彼らの奇抜なファションはジョーカーの持つ『アンバランスで印象的』と同じものを持ち、キャラクターの個性や性質をより克明に表している。

 二つの頭脳と心を持つトゥー・フェイスの衣装は、その二つの性格をはっきり表現している。彼のアジトと二人の愛人シュガー&スパイスのファッションもトゥー・フェイスの性格をちゃんと反映しており、これについても後で述べたい。右の画像と照らし合わせると分かりやすい。

短気で荒々しい方・左≫スーツ上下が赤地に黒のトラ柄、シャツは黄色地に黒のヒョウ柄、ネクタイも黄色地に黒のヒョウ柄、顔は薬品で焼けて赤く爛れ、髪も変色している上に乱れている。指と甲に金属の装飾が付けられた皮手袋をはめている。色・柄がともに凶暴さを提示。

知的で冷静な方・右≫スーツ上下が黒無地、シャツはしろ、ネクタイは無難な無地の赤。普通の男性と同じような時計をしている。地位ある年齢相応の男性らしい、また、変貌する前の敏腕地方検事ハーヴェイ自身を残している。


トミー・リー・ジョーンズ演ずる
トゥー・フェイス
(『BATMAN FOREVER』より)

 

 リドラーは、毒々しい赤を基調としたトゥーフェイスに対し、ケバケバしい蛍光黄緑が基調にされた衣装。しかも、全身タイツ。
 元からエキセントリックな性格だったので、変貌したらそれが前面に出てきたようだ。ジム・キャリーのはちゃめちゃな弾けっぷりと見事にマッチした、「危ない人」と言う感じ。ちなみに原作通りである('69年映画「バットマン」ではハテナ一つだったが、今回は全身にプリント)。
 彼は三度、衣装替えするが、基本は黄緑とハテナ。「ナゾナゾ大好きだゼ〜!」と自己主張し過ぎ。そう、自己顕示欲の塊であるリドラーの性格も出ている。

 金色のハテナ型金属ステッキがまたイイ。自分では、ものすごく頭がよい…スマートな男だと思っているから、紳士の持ち物であるステッキは一つのデモンストレーションである。開錠機能や遠隔爆破機能を持っている武器だが、玩具のように振り回している様がリドラーの道化っぽい性格を表現するのによい材料だ。
 このリドラー、コメディアン気質を持っている。と言うより、奇抜で不可思議なこの役にハイテンションな演技ができるジムを起用した点で、コメディアン気質を持たせようとしたのではないだろうか。最後の衣装は一昔前のコメディアンさながらのキラキラしたスパンコール付きスーツ。髪が伸びて変な形になっているのが気になるが、ぶっ飛んだコメディアンに怪人としてのクレイジーな部分を併せ持たせていると思うと面白い。


資金稼ぎで宝石店を強盗するリドラー、トゥー・フェイスとその一味。
(『BATMAN FOREVER』)