<BACK

Batman And More Characters Suits

 

 バットマンの特徴と言えば、他の多くのヒーローも同じだが、コスチュームである。
 コスチュームはキャラクターそれぞれの個性を表現し、ヒーロー一人一人を見分ける(笑)ことと、そのヒーローの性質をも表している。
 記憶に残る歴代のヒーローと言えば『スーパーマン』。明るい色合いは派手だったが、確かに見る側に印象を残していった。もっとも、内容の面白さが、ある年齢以上の人には必ず残っているのだろう。しかし、スーパーマンを見たことがない世代でも、あの衣装はすぐに彼だとわかる。
 そして、もう一人、誰もが見てすぐに「彼だ!」と分かるコスチュームがある。
 雲に覆われた夜空に浮かぶシグナルが見えた時、彼は闇の中から突如として出現し、あっという間に敵を打ち倒す。
 そう、バットマンだ。

 ’89年に製作された『BATMAN』は、T.バートン監督の目指した形、理想を強く表している。その後、製作される『BATMAN RETRUNS』でも、内面的な掘り下げが大きなテーマであり、キャラクターもストーリーも非常に濃い影がある。

 T.バートンが製作側に回って作られた第三作目は、それまでの二作で彼が作り出した『BATMAN』とは様子が違う。心の闇を画面全体に投影していたものが、ダークな部分を掘り出し、浮き彫りにした形になったと言えるのではないだろうか。
 基本コンセプトとそれに合わせて作られたストーリーを視覚的に直接伝える表現方法の一つに、BATMANにはコスチュームという手段がある…私はそのように思えた。
 トレードマークであり、個性である、それがヒーローのコスチュームであろう。

 映画化されるにあたり、原作やアニメで作られたイメージを引き継ぎつつも映画独自の世界に見合ったバットマンの姿を作る必要があったように思う。
 T.バートンの目指した世界に登場するバットマンは、ただのヒーローではない。「闇」を通して映し出された、非常にダークな部分を持った…ある意味ダーティーなイメージである。
 「闇」そのもの、と言ったら過言だろうか。

 

暗闇の中を駆け、音もなく舞い降り、マスクで隠した顔が…ヒーローであるにもかかわらず…冷酷にすら見える目で敵を見詰める。『BATMAN』及び『BATMAN RETURNS』のバットスーツは個と外界を切り離し(それは同時にバットマンになるためにブルースという人間的部分を切り離す、あるいは一時的に隔離する)、精神的な面からも強固な防御服なように見える。

 

 『BATMAN』『B.RETURN』では人間性や生身を生体以外のもので覆い隠す感じだった。
 それが『FOREVER』から、ただ身に付けるだけではなく、外に向かって力を解放するかのように、強く自己顕示するための「媒体」へ変わった。敵を威圧する目的と言うよりもむしろ、誇張表現された肉体美(筋肉)を前面に出している。ある種の重厚さ、男性から見る男性の理想を具現化したデザインと言えるのではないだろうか。
 そして、『BATMAN&ROBIN』の新型スーツは、『FOREVER』のよりもスレンダーでシンプルになった。誇張する必要がないから、より"カッコイイ"を形にしたのだろう。ヴァルからジョージにブルース/バットマン役が移ったからかもしれない。外界へ力を爆発的に表現すると言うよりも、スマートな感じである。
 敵役Mr.フリーズにアーノルド・シュワルツネッガーと言う肉体派アクション俳優を当てているから、バットマンがそれほど自己顕示する必要がないのだろう。返って、Mr.フリーズと相対する存在として、スマートな姿を表現したのだと思う。そのフリーズの衣装については…とにかく派手!歩く電気装飾。ガタイの良さと強面は日本のトラック(ウン百万かけて改造された外装の、ギラギラしたアレ)を思い起こさせる。う〜ん、突進してきたら怖い。
 「氷」をイメージされているから、冷たい感じのメタリックと、煌めきを表しているのだと思う。ロケットから降りる際に使っていた翼が青い電飾をつけた蝶の形で、ちょっとお茶目。アジトで着ていたガウンと白熊のスリッパがかなり可愛い。


ヴァル・キルマーのBATMAN
(『BATMAN FOREVER』より)

 どこまでも暗くて、笑いも一瞬で乾いてしまうような感じを受けた以前の作品と比べて、非常にコミカル、軽快なテンポで展開している。重厚さが減った感じ。返って、分かりやすい迫力とインパクトに重点をおいて作られた気がする。作品自体が「マニア向け」オンリーから、万人向けを目指したエンターテイメント映画になったことも理由だろう。女性が見ても”カッコイイ”と思われるようなヤツを…と。

 ロビンに加えてバットガールの登場も影響しているのではないだろうか。バットマン・バットガール・ロビンが違和感なくそれぞれの魅力や個性を持ちつつも統制をとるには、前作のデザインはそぐわない。新デザインによってバランスが取れて、尚且つ、エンターテイメント・アクション・ムービーに進化したBATMANの、よりスピーディーでスマートな戦闘シーンを演技だけではなく、衣装からも表現したのではないだろうか。

 

≪A.シュワルツネッガー演じるMr.フリーズ (『BATMAN&ROBIN』より)

そして、忘れてならないのが、バットマンの相棒であるロビンである。
 原作のロビンは十代の美少年と言う設定だったが、映画では現代っ子らしい青年になった。庇護下の少年ではなく、パートナーとして同等の地位にある男である。「サイドキック」ではなく「パートナー」と連発しているセリフからも伺える。衣装ももちろん、変化している。

 強いて言うなら、サーカスのブランコ乗りをしていた時の舞台衣装が原作のロビンを意識(と言うより、サーカスの衣装をロビンスーツにしたのでは…)している。身体のラインが出るぴったりした全身タイツ、である。
 また、赤と緑はロビンの変わらぬテーマカラーのようだ。ロビンスーツにも、原色より暗い色だが赤と緑が使われている。
 初登場の時に作られたロビンスーツはバットマン同様、肉体美を誇張したようなかなり筋肉質な型で作られている。『FOREVER』のスーツは、バットマン・ロビン共々、プロテクターと言うより肉体的なデザインと言えるのではないだろうか。また、パートナーとして現れた新しいレギュラーキャラクターを強く印象付けるために、非常に重厚な感じにした…と思う。
 『BATMAN&ROBIN』で新デザインになったロビンスーツは、黒地に赤のロビンマークが胸元に施された、バットマン同様、前作よりスマートになったスーツである。余計なものを取り除いた、一言で言えば「格好良くなった」感じ。
 以前の重厚さを取り除いた為か、ストーリーの中でロビンがロビンたる所以―――無鉄砲でがむしゃら、危なっかしくて心配―――を如実に表している。スマートになった分、ちょっと頼りない。ロビンの持ち味である「駒鳥のような素早さ」や、少年っぽさが出てきたようにも思う。


『BATMAN&ROBIN』でリニューアルされたバットスーツとロビンスーツ
(DCコミック発売のCDドラマ『BATMAN&ROBIN』のジャケットイラストより)

作品の性質変更を、実に良く出しているのは、やはり主人公たちの新しいコスチュームだろう。

 

About Villain Suits ≪『BATMAN』に欠かせない悪役たちの衣装

 


おまけ



BATMAN BEYOND THE MOVIE

 ちなみに、原作ではロビンは世代交代して、3代いる。
 初代は日本でもおなじみ、映画で登場したディック・グレイソンだが、二代目はJason Todd。三代目がティム(ティモシー)・ドレイクで、現在、ロビンと呼ばれているのはティム。ディックはナイトウィングになっている(この衣装がまた…。ロビン色が嫌なのか、青と黄色。でも、同じように胸元にバードマーク。鳥からは離れないらしい…KnigtWingだし)。
 なにが注目かと言うと、ティム/ロビンの衣装。黒地に赤のロビンマークは『BATMAN&ROBIN』のディック/ロビンと似ている(バットマンの窮地に、ロビンスーツを見つけた彼はそれを身に付け、助けに行ったことからロビンとして認められたのだから当たり前か?)。
 そして、現在進行中の新シリーズ『BATMAN BEYOND』の新バットマン/テリーだ。彼のバットスーツは黒地に赤のバットマーク。はっきり言って、三代目ロビンの衣装とそっくり。
 詳しくは知らないので、B.B.ファンの方に怒られてしまうかもしれないが、どうも、どちらかというとテリーは未だに「主人公バットマン」の地位は得ておらず、老獪なジジイ、ブルースのつかいっぱしりなイメージがある。そんなブルースにどやされたりしかられたりしながら付き従う姿は、「ロビン」に近い感じがするのだ。

 彼がバットマンとしての確たる地位を手に入れるのはまだまだ先になりそうだ…その頃には弟のマットが今度はロビンとして活躍するようになるかもしれない(超希望的予想)。

 と、ちょっとだけバットスーツについてのおまけ考察でした。